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木とともに暮らす日々Woody Days

オーガニックカフェ&オーガニックライフ

取材・執筆/それからデザイン 写真/杉能信介

昼夜の寒暖差がひしひしと感じられるようになった11月某日、秋晴れが気持ちいい午後。
東武東上線・高坂駅から、なだらかな山道を車で走っていく。
しばらく進むと、のどかな田園風景が広がる場所に着いた。

埼玉県にある鳩山町(はとやまちょう)だ。

ここに東京都三鷹市から移り住んできた安達(あだち)さんご家族が住む。
空をさえぎるきりりとした一方向への直線、“片流れ屋根”が印象的だった。

安達さんご家族は、将(まさる)さん、洋子(ひろこ)さん、娘のあこちゃんの3人家族。

奥様の洋子さんはグラフィックデザイナーのかたわら、オーガニックカフェ「wood canvas(ウッドキャンバス)」のオーナーを務める。カフェは、今年の9月に引き渡されたばかりの家の中に併設されている。

洋子さんが切り盛りするカフェでは、本格的なマクロビオティック料理と一緒に、薫り豊かなオーガニック珈琲が提供されている。食材は鳩山町で採れた地元の野菜やお米、国産食材を中心に “作り手の顔が見える料理”にこだわっているそう。

洋子さんは料理歴20年の大ベテラン。マクロビオティックのクッキング教室の講師も務めるプロフェッショナルだ。昔から料理を作るのが好きだったのかな。料理づくりに目覚めたきっかけは何だったのだろう。

「子どもの頃、祖母がちょくちょく晩ごはんを作ってくれていました。父も母も働いていたので、おばあちゃん、おじいちゃんと一緒にごはんを食べる機会が多かったです。もちろん、一緒に食べるひとときは楽しかったのですが、料理の味付けはどうも慣れなくて…(笑) おじいちゃん好みの味付けに作られていたせいか、しょっぱかったり甘かったり、油っこかったり。当時はなかなか受け入れることができませんでした。そんな体験から『ごはんと味噌汁だけでも、自分で作って食べたい!』と思うようになりました」

ひょんなきっかけから洋子さんの料理づくりへの挑戦が始まった。ただし、レシピ本は一切使わない。とにもかくにもトライ・アンド・エラー! まずは作ってみて、味噌が少なければ足し、だしが多ければ減らし…と、自分なりに実験を繰り返したのだそう。

「料理レシピ本を読んで作ろうという発想はなぜかありませんでした(笑)今考えると非効率だったかもしれませんね…。中学生ながら無我夢中で研究しました。そんなことを繰り返していくうちに美味しく作れるようにもなり。料理って楽しい!と思えるようになりました」

トライ・アンド・エラーの試作品はお母さんに食べてもらい、そこで受けたフィードバックを次の料理に生かしていったそうだ。どんな料理が得意だったのかな。

「得意料理と言っていいかわかりませんが、敢えて言うなら“わかめのお味噌汁”ですかね。今でも大好きなお味噌汁。私の原点です」

味噌と出汁、わかめ。シンプルな材料で作られるからこそ、作り手の味覚や個性が出る料理だろう。今では食のプロフェッショナルとして活躍する洋子さん。彩りよく盛り付けられ、真心こめて供される洋子さんの料理はただただ、美しかった。

キッチンの様子を眺めていたが、食材を切るときの包丁さばきも落ち着きがあって凛としている。印象的だったのはとても丁寧に食材を扱っていたことだ。急がず、焦らず。野菜に慈しみをもって向き合っているのがひしひしと伝わってくる。季節ごとに野菜の切り方や料理法を変えているともいうから、そのこだわりは並々ならぬものだ。
夏に野菜を食べるときは、繊維に沿って大きく切り、お塩で揉む、あるいは蒸したり茹でたり。一方、冬は細かく切って煮込むのがよいのだそう。こうした食材への作法はマクロビオティックの考えに触れたことで学んだそうだ。

「意外かもしれませんが、マクロビオティックを究めるキッカケを作ってくれたのは主人なんです。 娘を妊娠したタイミングで、マクロビオティックの本をプレゼントしてくれました。マクロビオティックは乾物や穀物など日持ちする食材を使うのが基本。ごはんは玄米を食べ、野菜も積極的に摂る“玄米菜食”です。元気な赤ちゃんを産んで、母子ともに健康になれるならできることをしたいなと思って、すぐさま実践しました。おかげさまで、娘も元気に育ってくれましたし、肩こりや眼精疲労などの不調も解消された。嬉しい驚きでしたね」

かく語られるマクロビオティックの基本的な考え方は3つ。食材の根っこや皮までまるごと食べる「一物全体(いちぶつぜんたい)」、季節の旬のものを食べる「身土不二(しんどふじ)」、そして食材を陰と陽に分けてそれぞれをバランス良く食べる「陰陽調和(いんようちょうわ)」だ。マクロビオティックの世界、知れば知るほど奥深そう。

カフェで提供される手料理も、味わいや風味が季節ごとに変わっていくのかな。春夏秋冬、どんな料理が展開されていくのか。今からワクワクしますね。

一方、ご主人の将(まさる)さんは食品の総合卸を生業にしている。スーパーやコンビニ、レストランなどに魚や肉、お菓子、珈琲などありとあらゆる食材を卸している。食品を扱う仕事は楽しいという将さん。洋子さん同様、食への関心が高いようだ。

「昔から家族で食卓を囲むとか鍋をやるとか、そういうことが好きでした。男三兄弟だったので子どもの頃は賑やかに過ごしていましたね。食べることも好きです。思い出の料理は母が作ってくれた唐揚げ!ボリューム系ですね(笑)」

洋子さん同様、食への関心が高い。そんな将さん、新しい鳩山町のお家になってから、どんな風に日々を楽しんでいるのかな。

「畑いじりで土に触れて農作物を収穫したり、お米作りするのがとても楽しいです。知り合いの農家さんのお米作りを手伝って、稲刈りや草刈りをしたり…。いい汗かいて、とっても気持ちいいですよ!地元で育った野菜やお米を分けてもらうのですが、とにかく新鮮で、すごく美味しいです」

玄米は昔ながらの手法で作っているらしく、将さんの好奇心を刺激したようだ。

「この家に越してくる前に、人生はじめての農業体験をしました。たまたま鳩山町の農家さんにお世話になったのですが、それは自分の価値観を大きく揺さぶる出来事になりました。食を育て耕し、地元で消費する、いわば“地産地消”を体験させていただいたような感じです。やっぱり地元の恵みは美味しいなって改めて実感しました。マクロビオティックの考えの一つである身土不二(しんどふじ)にも“地産地消”の考えがあり、自分たちの中で興味深いテーマとして育っていたのも大きな理由だったかも。そんなこんなで『地産地消を暮らしのテーマにしたいね』って、夫婦で話すようにもなり。いつの間にか、土地探しが始まっていました」

地産地消に関心があった安達さんご夫婦。喧々諤々の話し合いが続けられる中、突き詰めるところ『自分たちが住む家も、外国から輸入した木ではなくて、地元の木を使った家がいいね』という結論に至ったのだそう。“住”における地産地消、なんとも興味深いなぁ。そうして埼玉県には「西川材」という、地元で育ったスギやヒノキがあることを知り、西川材を使っているアーキテクトビルダーのYutakaにたどり着いた。

「Yutakaでお家を建てたOBの完成見学会に足を運びました。Yutakaの人たちはフレンドリーで温かい、そして誠実だというのが率直な印象です。私たちの考えを一つひとつ、つぶさに聞いてくれたのがとても嬉しかったし、1つ質問したら3つくらい返ってくるのも頼もしかった。そして何よりYutakaさんの家づくりがとっても素敵に感じました。どのお家のデザインもすごくいいし、薪ストーブがあるスローな暮らしもいいなって。ずっと抱いていたカフェオーナーになる夢も一気に膨らみました!」

とは洋子さん。将さん、洋子さんの語り口から、ワクワクした気持ちが伝わってくるなあ。そこから具体的にはどのように家づくりを進めていったのかな。

「ライフスタイルマガジンやアリス・ウォータースの本などをお見せしてイメージを伝えました。家の見た目を伝えるというよりは実現したいライフスタイルを伝えるという感じかも。とくにアリス・ウォータースのことが夫婦ふたりとも大好きだったので、彼女の考えを家の中に取り入れたいと思いました」

アリス・ウォータース氏は、地産地消のコンセプトを生み出した料理研究家だ。スローフードの第一人者として世界的にも有名であり、地元のオーガニック食材を使ったレストランは全米一予約が取れないのだとか。

「興味深いことに、アリス・ウォータースのお家はキッチンがど真ん中にある間取りなんです。とても変わっていますよね…。でもよくよく考えてみれば、食は人と人とをつなぐコミュニケーションの場だし、私たちの家作りにも食は重要なテーマだったので、キッチンを中心に置いたり、食卓を囲む心地よいスペースにできたら素敵だろうなと思いました」

キッチンが真ん中にあって、コミュニケーションが自然に生まれていく…。素敵なアイディアだなぁ。そのほか食つながりでいうと、安達邸はカフェを併設しているのもユニークですよね。

「私の母が家で小学生に向けて寺子屋塾を開いていました。母曰く、自宅に商いスペースを作ることで、お家が豊かになる、長持ちする、家を愛おしく感じるようになるよと言っていたんです。父にも、人が舞い込んでくるようなことをしたほうが良いと教えてもらい、そのことが頭の片隅に残っていたので家は住むだけではないスペースにしようと思いました」

お父様、お母様の影響があったのですね。しっかりとしたコンセプトをお持ちで、明るい人柄の洋子さん。きっとたくさんの人が集まってくるんだろうな。素材にこだわったマクロビオティック料理と、美味しい挽き立て珈琲。唯一無二の素敵なカフェになるでしょうね。

ちなみに、このお家で気に入っているところなんかも聞いてみたいな。

「外観の片流れ屋根がとても気に入っています! Yutakaさんからプランの提案をいただく前だったのですが、片流れの屋根の家がもともと好きだったので、カフェのロゴマークをつくる際に、片流れ屋根をデザインしていたんです。その後、Yutaka設計担当・岩澤さんが提案してくださった外観デザインが、たまたまロゴマークそっくりの片流れ屋根のお家だったんです!そのシンクロっぷりにとってもびっくり。これには運命を感じましたね(笑) 」

とは洋子さん。そんなことがあったのですね。

「片流れの屋根ってひと目見たら覚えてもらえそうなところもいいですよね。見えてきた、見えてきた! シンデレラ城が見えてきた! あれだね! みたいなワクワク感がいいなって。印象づけられる外観にしたいなと思ったので、岩澤さんの設計は刺さりましたねぇ!」

ひと目見たら忘れられない外観の安達邸。カフェに訪れる人々の看板として大活躍するでしょうね。

最後に安達さんご夫妻に、この家で楽しんでいきたいことをお聞きしよう。将さんはどうですか?

「地域の人々との交流を深めていって地元の人々をつなげる役割になりたいです。鳩山町は過疎化しているので若い人は少ないですが、素敵なおじいちゃん、おばあちゃんたちがいる。彼らの知恵を見聞きし、新しい世代の子どもたちに語り継いでいきたいですね」

洋子さんはどうでしょう?

「薪ストーブの火に暖まりながら、食卓とキッチンをど真ん中に据えて、気軽にコミュニケーションし合える場所を作っていきたいなと思っています。これからママになる人や子育て中のパパママには、キチンと食に向き合うことで健康が守られることを伝えていきたいなと思うし、一方ではおじいちゃん、おばあちゃんたちの知恵袋も聞いていきたい。我が家を、あらゆる人々と交流を深めるカフェにしていきたいですね」

将さんと洋子さん、それぞれの熱い夢を語ってくれました。カフェがみんなの交流の場に成長していくといいなと思います。

そんな今日は世紀の天体ショー”スーパームーン”の前夜。
片流れの屋根に、まんまるお月さまがキレイな夜でした。

(2016/11/14 取材・執筆/それからデザイン)

安達邸 DATA

所在地 埼玉県比企郡
お引き渡し日 2016年9月
家族構成 夫婦+子供1人
こだわりワード オーガニック,地産地消,西川材,薪ストーブ

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