Yutaka

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Woody Days

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木とともに暮らす日々Woody Days

見渡せば、そこにある

取材・執筆/それからデザイン 写真/杉能信介

埼玉県飯能市を流れる成木川。
夏にはホタルが見られ、ヤマメやニジマスも棲むという自然ゆたかな清流のほとりから、少し上がったところにある広々とした土地の一角に、片流れの大屋根が見えてきました。

これが土橋さんの家です。

 

なんだか気持ちがいい場所ですね。
片流れの大きな屋根とドーマー窓が、青空に映えています。
ドアを開けると、広い土間の向こう、リビングとその奥にあるキッチンまでずーっと見渡すことができる。

ああ、晴れ晴れとする家だなあ。

 

「玄関が狭いのは好きじゃないんです。店をやっているせいか、全部ひと目で把握したい」。
そういうご主人は、土橋 健司さん。
知る人ぞ知る、有名ラーメン店のオーナーだ。ミシュランガイドにも載っている人気店。現在は数店舗を運営している。

「お買い物をする時は、軽トラのうえにカゴをどんと載せて。帰ってきたら、カゴをおろしてリビングにいきなりどんと運び込めちゃうんです」。

ニコッと微笑むのは奥さんの加奈さん。

スラリと長い手足が印象的な加奈さん、聞けば、幼い頃からダンスを極めてきた人だった。プロダンサーとして、舞台に立っていた時期もあったそう。
その経験を活かし、今では、幼児教育を学ぶ大学生に「表現」を教える大学の先生をつとめている。

ラーメン店のオーナーと、大学講師。
不思議な組み合わせだけど、この夫婦、なんだかとっても雰囲気がいい。
二人が醸し出す空気感に引き込まれてしまう。
これが、「あ・うん」の呼吸というものか。
そんなお二人の“今までのこと”がまずは気になってしまいます。

落ち着いていて柔らかい中にもどっしりとした軸を持っているように見える、健司さん。
20代の頃は「やんちゃしてた」んだそうで…。

「20代前半かな? 若い頃はとにかく日常に窮屈さを感じていました。だから仕事も、最初は和食の弟子職人からだったけれど、そのあとはあっち行ったり、こっち行ったりで。業界もいろいろ経験して、でも、結局は飲食が肌に合っていた。
飲食っていうのは仕事に対する哲学がわかりやすいんです。“美味しいものを、それに適した空間で提供する”ということ。それで、20代半ばでワインの世界に行ってソムリエの資格をとって」。

「最終的に、自分の店を持ちたいとは思っていたけれど、何歳で独立など、ちゃんと考えていたわけではないですよ。流れ流れて今に至っていますから。
“一人でできる飲食店”ということを考えてバーかラーメン屋か、かな? って。でも、バーという業態はちょっとお客さんとの距離が近すぎる…。それでラーメン屋にしようと」

健司さん、30歳ぐらいで、ラーメン屋さんに修行に入ったそう。
努力もあっただろうけれど、持ち前の器用さで、ラーメン店のノウハウをすぐに吸収。頭角をあらわして、店長そしてエリアマネージャーにまでなってしまった。

そんなときに出会ったのが加奈さんだ。

「近くのラーメン屋さんでアルバイトを募集しているよ、って聞いて。行ってみたら、すごく厳しい店長だった。スパルタ店長ですよ、本当に」と加奈さん。

そう、この2人の出会いは、ラーメン店の店長とアルバイトだったのだ。

「妻の第一印象ですか? うーん、ぬぼーっとしてる?」なんて。健司さん、ちょっと照れているのかな。
当時、大学を卒業し、ミュージカルに出演するなど、プロダンサーを目指していた加奈さん。健司さんと一番年齢が近いアルバイトだったそう。
「閉店後とかにちょっと話すようになって。好きな音楽が共通してたりとか、そんなことがわかって」。
「それで、見に来てくれたんです。私がやっているダンスの舞台を。そこから興味を持ってくれたようで…」と加奈さん。

健司さんは、加奈さんのダンスに衝撃を受けた。
「独特な世界観のあるダンスだったんです。例えば、7、8人ぐらいのダンサーが仮面をかぶってチュチュを着て、ラジオ体操をしたり。なんなんだ、これは!? となりまして。
若い頃、難解なフランス映画を観て自分なりに解釈していたのですが、それに近い感覚がありました」。

加奈さんの前衛的な身体表現に撃ち抜かれた健司さん。
どこかマイノリティなものに惹かれる感性を持つ者同士、尊敬し合う2人の付き合いが始まった。

そんなお二人、家を建てることを決めたのは、結婚や○歳までに、といった区切りではなく、まさに「潮が満ちた」と言おうか、そんな時だったそう。

「加奈は“家が欲しい”とは言わなかった。“自分たちにあった生活スタイルが欲しい”と言った。その気持ちに僕は共感したんです。木を植えて、花が咲き、実がなる。その何十年の間に思い出もできて、愛着もわいて、そういう生活スタイルがほしいと。それで、家を建てることを決めました」と健司さん。

「当時、大学での仕事を始めていて、毎日通勤で車を使って高速道路を行ったり来たり。なんでこんなことをしているんだろう、私、と思って。学校で畑をやっていたこともあって、自然とともに暮らしたい、という気持ちがふつふつと湧いてきたんです」

「田舎で暮らすのは、どう?」という加奈さんからの呼びかけに、
「はい」と答えた健司さん。

こうして、土地探し・家探しが始まりました。

Yutakaを知ったのは、土地を探して飯能市内を回っていたときでした。
「ちょうどYutakaさんの見学会をやっていたお宅の近くを通ったんです。そこで手にとったのが、まさに“woodydays”の冊子。それでいきなりお電話したことから始まりました」。

「その後、楢崎さんのおうちを見せていただいたんですが、まさに入った瞬間に理想だ! と思って。片流れの家とガルバリウム、これだなって。この家がそのままほしい! と思ったほどに魅力的でした。
Yutakaの皆さんは、家づくりの素人に対して、とてもわかりやすく設計についても説明してくれました」。

こうしてYutakaで家を建てることを決めた二人。心配事はありませんでしたか?

「一番心配だったのは、やはり資金計画ですよね。そこから相談に乗ってもらって」と健司さん。
具体的な相談ができたことで、家づくりが現実のものとなってきたそう。

「こだわったのは、キッチン。僕たちは食を通じて出会っているので、やはりそこだけは造作にしてもらいました。あと食洗機。ケンカになるから必ず入れたかったですね(笑)」

「あとは、外と内が自然につながるように、と。この家に仕事から戻ってくると、解放される感覚があるんです。ドアを開けたその先に仕切りがないから。輪郭が定まらないものに飛び込むような感じ。自由に生きてきたもので…型にはまるのが窮屈で苦手で」と健司さん。

健司さんの感覚が、設計に生かされているんですね。

「Yutakaさんは皆さん、プロですから。そのプロの皆さんが知恵と経験を使って作ってくれるもの。僕らが見えていないことも見えている。ああしたい・こうしたい、という要望に対して、“これはどうですか?”、“じゃあこうしましょう”、“え、こういうこともできるんですね? じゃあもしかしてこれは…”といった、前向きな話し合いの重ね方が印象に残っています」。
打ち合わせは、視点が広がる楽しい時間だったそう。

加奈さんは「テーブルの場所」にこだわったと話します。「私たちの生活の中心が食べて飲むことなので、ここからはじまる。これが中心という気持ちがあって」。

無垢材のダイニングテーブルに夫婦それぞれのお気に入りの椅子を置いて、飲みながら語り合う日々を過ごしているそう。

「そうそう、テーブルは、冷蔵庫の氷が座ったまま取れるという位置にもこだわったんです。氷取りに行くのはどっちだ、とかじゃんけんして…というのがなくなってよかったです(笑)」。

うん、そういうのってけっこう大事。
2人で過ごす貴重なひととき、なんだか情景が浮かんできます。

「私は梅干しチューハイが大好きで。健司は日本酒が好きで、焼酎もおいしいねって、麦焼酎飲んだり、ワイン、シャンパンもよく飲みます。
ワイン飲みたいなあ、というところから夕飯の内容が決まる。料理は、旬のものをシンプルに焼いたりしていただきます。お野菜をご近所からいただくことも多くて。冬は大根、白菜、夏はモロヘイヤ、スイカ。
もらった食材をどう生かそうか、と思うけれど、結局素材が美味しいから凝った料理は必要ないんですよね」と加奈さん。

全然違うお仕事を持つお二人、食べながら・飲みながらどんな話をするのかな。

「うーん、僕は仕事の話はほとんどしないんで。加奈は仕事のことをよく話していますね」。

「私は健司のことをすごいなって思っていて。ミシュランガイドに掲載してもらうって、ちょっと頭ひとつ抜けたセンスがないとできないこと。
そういうものを持っているんです、彼は。だけど、泥臭く努力して…というタイプじゃなくて、けっこう感覚的だし、いい意味で要領が良い。私だったらそんなふうにはできないなって…」と加奈さん。

健司さんが言います。「僕はちょっと違うと思っていて」。

「要領が良い人は天井が見えちゃう。一方で、泥臭く何十年も同じことをやっている人は、50歳を過ぎたころから、その人にしか咲かせられない花が咲く。
そこで初めて、要領の良い人達は知ることになるんです…もう手が届かないってことを」。

「私の泥臭さについて、健司が、そういうやり方もあるよ、と認めてくれるところがある。その人じゃないと出せない味があるよって」

健司さんと加奈さん、お互いのこと、今のこと、未来のこと…いろんな話を語り合います。

「足るを知る」という言葉について話してくれたのは健司さん。

「なにごともそうなんじゃないかと。自分の人生が80年だとしたら、何十年も“足りない”と思って生きるのか。“足りた”と満足感を得て過ごす期間が長いほど、僕らにとって幸せな人生なのではないか、と」。

「もちろん10代、20代は実力も経験もないから、“足りない”のが当然。
その中でいかに、足りるための修行をするか。そして成長できれば、自分自身の商品・サービスを通じて世の中に付加価値を与えることができる。そして、お金もかえってくる。
そのお金で自分たちの暮らしを豊かにする。そうして、自分の環境を自分で準備する。
家づくりやこの生活スタイルも、そういうことなんじゃないかなって」。

ゆくゆく、のことはどんなふうに考えていますか?

「理想をいうと、このへんのだだっ広いところで、ラーメン屋やカフェと、自然、子どもや表現に関わる何かができたら面白いなと。まだ思いつきの段階だけど…」と加奈さん。

健司さんも、「10年ぐらい先を見据えて、デイサービスとかもあってもいいかもとか。食があればそこにみんなが集うし、子供とお年寄りが同じ場にいる、ということが当たり前だった時代を取り戻せるといいですよね」と話す。

ああ、話が尽きないなあ。ことばがどんどん重なってイメージが広がっていく。
二人と、この家を、中心に。
輪郭なんか決めなくたっていい。どんどん語ろう、そして広げていこう。

(2020/02/02 取材・執筆/それからデザイン)

土橋邸 DATA

所在地 埼玉県飯能市
お引き渡し日 2019年8月
家族構成 夫婦
こだわりワード 西川材,ドーマー窓,片流れの屋根,自然素材,薪ストーブ,造作キッチン

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