Yutaka

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自然素材の家でのくらし。オーガニックでゆたかに生活する人たちの物語。

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Woody Days

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木とともに暮らす日々Woody Days

暮らしを編む

取材・執筆/それからデザイン 写真/杉能信介

埼玉県飯能市を流れる入間川の中流。
自然豊かな「飯能河原」と呼ばれる河川敷がある。
飯能市が管理する河川敷で、バーベキューやキャンプ、釣り…あらゆる川遊びを安全にのびのびと楽しめるスポットだ。
この飯能河原にほど近い高台が、今泉邸の場所。

「こんにち・・・・」
言い終わらないうちに、家の中から、鉄砲玉のように女の子が飛び出してきて、そのままジャンプ!
鮮やかに軒先のハンモックに飛び乗った。
運動神経バツグンの女の子は、萌依子(めいこ)ちゃん。小学校1年生の女の子。

 

奥から出てこられたのは、
お腹の大きな奥様・良枝さんと、伸ばした髪を素敵に束ねたご主人の尋之さん。
そして、3年生の男の子、雄為(ゆうい)くん。

もうすぐ生まれる赤ちゃんのほか、ペットたちも加えて、総勢、人5人+犬1匹+猫1匹。これが、今泉家の人々です。

 

今泉邸、まず気になるのが「離れ」の存在。
エントランスから広いウッドデッキでつながっているその先に、小屋がある。
これは、ご主人・尋之さんの工房です。

尋之さんは、山葡萄の蔓を使って、かごや財布、小物類を編み上げる作家さん。
「oriori」という工房を構えている。
伝統的な工法を守りながらも、できあがる作品はモダンで、凛として美しい。

工房は、木の香りと蔓の香りがブレンドされた落ち着く「籠もり部屋」。上部には、作品の原材料となる山葡萄の蔓が束ねられて置かれています。

山葡萄の蔓を「山に採りにいく」ところから、尋之さんの仕事は始まります。

「作品作りに最適なのは、樹齢20〜30年ぐらいの山葡萄の蔓から採れる樹皮です。1年間で梅雨時の2、3週間だけ、山葡萄の蔓の樹皮が剥ける。その時期のだいたい1ヶ月ぐらい、山の近くに一軒家を借りて蔓を採ります」

なんと、蔓を採取するため、10メートルぐらいの高さまで木を登る。

「蔓は自立できないので、植林されたカラマツや杉の木に寄生しています。その木に登って蔓を取るんですが、切った蔓は死んでしまうので、なるべく木の上の方で切って、無駄なく使ってあげたい。若い蔓は残しておいて、充分太くなってきた蔓から樹皮を採らせてもらう。自然の再生サイクルに合わせて森を守りながら、共存させてもらって」。

山は長野県にあるのだそう。一人で入るのですか?

「そうなんです。だから心配で…。熊も出るようなところなので」と良枝さん。

採ってきた蔓をさらに割き、編み上げるのに最適な形にしたうえで、編む。
例えば、お財布1つ作るのに、どれぐらいの時間がかかるものなのでしょうか。

「全ての作業を自分1人でやっているので、どうしても時間はかかってしまいます。編み方にもよりますが、1つのお財布で1週間ぐらいかな」

一つ一つ丁寧に、細部までこだわった尋之さんの仕事の尊さに、心が射抜かれます。
それにしても、なぜこの仕事を選び、そして、なぜ、ここに家と工房を構えたのでしょう。

尋之さん、幼い頃から器用で、手を動かして何かを作るのは好きだった。
しかし、それを職業に繋げることをすぐに考えていたわけではなく、大学では文学部で史学を専攻し、卒業後、ウェブデザイン会社に就職。
「最初からこの仕事を一生やっていくわけじゃないだろうな、と思っていました。だから3、4年経ったときに、どうしようかなと。そこで自分の好きなことを考えたら、料理が好きだなと思って。そこからフードコーディネーターのスクールに行きました」

そのスクールで、スタイリングの才能を見いだされ、フリーのスタイリストの道を歩みはじめた尋之さん。例えば、料理雑誌の撮影のスタイリングなどをしていたそう。とても華やかな世界です。

尋之さんと良枝さん。
お二人が出会ったのは、そんな頃。
尋之さんが所属していた社会人のサッカーチームに、良枝さんが遊びに来たことがきっかけでした。

尋之さん、サッカーも幼い頃から続けていて、得意なんですって。
「子どもの頃からずっとサッカーが好きで、小・中・高サッカー部で、大学でも社会人でも続けてました」とは、なんだか意外な言葉。

「彼だけちょっと雰囲気が違ったんですよね。サッカーも上手だけれど、芸術も好き、みたいな変わった人で。知識人で面白い人だなあと思って」と良枝さん。
サッカーチームの友人の結婚式の2次会の幹事を頼まれたことがきっかけで、仲良くなったそう。
「ただ、この人とは結婚はしないだろうなって。彼は知的な部分がある人だったので。それまでお付き合いしてきたのがお笑い芸人みたいな方ばかりだったから、タイプが全く違った(笑)」と良枝さん。

しかし、そんな中、命を授かった。長男の雄為くんだ。

「お腹に赤ちゃんがいるとわかって、仕事について考えました。華やかな世界だけど、スタイリストのギャラでは家族を養えない」。

尋之さん、結婚すると同時に、フリーランスのスタイリストを辞め、食器等を輸入販売する会社に就職することを決意しました。
とはいえ、もともと「自分にしかできない仕事をしたい」という思いの持ち主。
模索している中で出会ったのが、「山葡萄」でした。

「輸入の仕事をしている中で、”日本にも良いものがたくさんあるのに”という思いが沸々と湧いて。伝統工芸の世界に興味を持ちました。僕、生まれが東北の福島なんですが、山葡萄の籠が名産のひとつなんですね。自分のルーツと関係していたことも、一つのきっかけとなりました。ただ、家族がいるから。これで生活していけるのか?という問題があって。文字通り、死ぬほど悩みましたね」

山葡萄の作品作りを教えてくれた先生に、「仕事としてやっていきたい」と相談、「本気でやれば、生活できる」との言葉に背中を押された。
そして、何よりも良枝さんが全面的に応援してくれたそう。

「私は、なんとかなると思っていましたね。彼は、誰よりも深く考えています。努力もしていて、うまくいかないわけがない。自分も働いていくつもりもありましたし、大丈夫だと思っていました」と心強い言葉。
保育士の資格を持つ良枝さん。
現在は産休中だが、障害児保育に携わってきた。
良枝さんがプロフェッショナルとして仕事をしていることも、尋之さんの支えになったことでしょう。

こうして、尋之さんの山葡萄作品の工房「oriori」が始まりました。

東京に住んでいた2人が家を建てようかと考え始めたのは、2017年のクリスマス頃。
良枝さんの両親が埼玉県・狭山在住であり、ゆくゆくはその付近で暮らしたいと考えていたことから、最初は狭山や所沢あたりで土地を探し始めたそう。

「実は、Yutakaさんと出会う前に、ずっとほかのビルダーさんに相談していたんです。だけどちょっと決め手にかける部分があって」と尋之さん。

そんな時に、ちょっとした事件が起きます。

「インターネットで検索して見つけたYutakaのウェブサイトをブラウザに表示したまま、僕がお風呂に入ってたんですよ。その隙にそれを見た妻がいつの間にか電話していて」。

「21時過ぎ…だったかな。パソコンに表示されているのを見て、この工務店さんいいんじゃない?と思って。ちょっと酔っ払ってたからノリですぐに電話しちゃったんですよ! そうしたら、安食社長が電話に出てくれたんですけど、社長も飲んでたみたいで、居酒屋にいるときに電話がかかってきたって(笑)。今度お話を聞きに行きたいんです、って言ったら、いつでもいいですよー!って」と良枝さん。

「酔っぱらい電話事件」から1週間程度で実際に打ち合わせをし始めたそう。

「最初に話を聞きに行ったその帰りに、もう”Yutakaさんにお願いしよう”となりました。ゼロから家づくりの話ができて、すごくよかった。やりたいことが実現できそうで。自分が想像してるものと、自分が想像しきれないけどその先にあるものを、提案してくれるんじゃないかなって」。

最終的に、飯能に居を構えることに決めた2人。
「実は最初は妻が飯能は寒いから嫌だって。ただ、薪ストーブがほしいと考えた時に、飯能がいいなと思いました。煙突から出る煙などのご近所とのトラブルが心配だったけど、飯能なら材木の街なので、ここならいけるなって。街を歩いていても、煙突がある家がいっぱいありますし」。
間取り、生活スタイル…拘りポイントを多く持っていた尋之さん。薪ストーブもその中の一つでした。

家を建てるにあたって、心配なことはなかったのでしょうか。
「どんなに力がある工務店だったとしても、予算との兼ね合いで、僕らのやりたいことが全部できるわけじゃない。妥協点が絶対出てくると思うんですけれど、それがどこまで自分の描いている理想に近いところで着地できるだろうか、という不安は常にありました」。

Yutakaとの話し合い、アイデアの出し合いによって、かなり理想に近いところまで持ってこられたそう。打ち合わせはどんな感じだったのでしょうか。

「毎回、とにかく楽しくって。希望を話して、ベースの図面を引いてもらう。それに対して、自分の中で”うーん、ここどうしようかな”と思うような宿題がいくつか出てきて、それをずーっと考えながら次の打ち合わせまで、素人なりに自分でも図面を書いたりして…。次の打ち合わせにその図面を持っていったら”今泉さん、それできますよ!いいですね!”と採用してくださったりして」。

「主人がすごい楽しそうで。Yutakaさんとの打ち合わせが友達と会うみたいな感じで。彼がすごく拘りがある人で、考え抜いているので、私は出る幕がないぐらい(笑)。私の希望もすべて、主人が汲み取ってくれていました」と良枝さん。
家族は、それぞれ「夢ノート」を描きました。
目を奪われるのは良枝さんのおおらかさ。
「晴れた日は音楽をかけて洗濯物を干したい」。ただそれだけのイラスト、だけど新しい生活のイメージが十二分に伝わってくる。

家づくりに細部にわたってこだわる尋之さん。 特にこだわったところの一つが、オリジナルで造作したキッチンでした。

「天然木のカウンターにしたくて。理由は単純に“その方がこの家に合う”と思ったから。人工大理石のキッチンもキレイで使いやすいと思うんですが、それだとせっかく家全体がまるで森の中の家のような様相にできそうなのに、そこだけ近代的になっちゃうなと」

天然木のキッチン。実現するのは大変じゃなかったのでしょうか。

「シンクはステンレス製がよかったのだけど、木のカウンターにステンレスのシンクをおさめるのはなかなか難しいという話がありました。天然木ってどうしても伸びたり縮んだりしてしまうものですから…。僕もいろいろ調べて、Yutakaさんもいろいろと調べてくださって。最終的には、シンクの縁だけ加工した人工大理石でコーティングする、というアイデアを出していただき、うまくいきました」

こうしてできたお気に入りのキッチン。
お休みの日は、みんなで料理を楽しんでいるそう。

どんなお料理をするのかな。
夫婦ともども、キッチンに立つことが多いと話す2人。
「とはいっても、私は普通の家庭料理しかできないです」と良枝さん。
尋之さんは「僕は…正直、なんでも作れます」
何事も極めてしまう尋之さん、お料理もレシピ本を読んでそこから自分で学び、工夫して突き詰めていってしまうそう。
良枝さんは、「お互いに性格が正反対・真逆なところがいいところかも」と話してくれました。尋之さんも良枝さんに尊敬の念を抱いている。
「僕にはないものをたくさん持っている人なんです」。

今の生活は、朝、尋之さんが子どもたちを、そして、仕事場に向かう良枝さんを送る。
戻ってきてから工房に籠もり、制作に集中。
作業は夜まで続くことも。
帰宅した子どもたちは、お父さんが編んでつくってくれたハンモックで遊びます。

リビングからつながる1階の和室は、雄為くんのお気に入り。
「寝転んで遊べるから」と雄為くん。

家族のリラックスタイムは、木で囲まれたお風呂で。
「温泉のヒノキ風呂みたいなお風呂にしたい、と、Yutakaさんに相談したら、ユニットバスでも板張りのお風呂はできますよ、って」
木の香りが広がるサワラの板張りのバスができあがった。
「前のおうちのお風呂は狭くて2人で入っても窮屈だったけど、今は3人でゆったり入れる」と萌依子ちゃん。

尋之さんの作品、山葡萄の籠に、この家族の風景が重なります。

尋之さんは、やっぱり山葡萄の蔓のよう。しなやかで強い、でも繊細な表情も。
良枝さんは、モヘアのような。ふわふわであったかい。
子どもたちも加わって。
縦の糸、横の糸。太くなったり、細くなったりしながら
この家を中心に、生活を、人生を編みあげていく。

みんなでつくる、家族の暮らし。
どんな作品ができていくのか。ずーっと先を見てみたくなりました。

(2020/02/02 取材・執筆/それからデザイン)

今泉邸 DATA

所在地 埼玉県飯能市
お引き渡し日 2018年12月
家族構成 夫婦、子ども3人、ペット
こだわりワード 西川材,漆喰,薪ストーブ,造作キッチン,離れ,工房

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